<質問>
琉球古武術における棒,サイ、ヌンチャク、トンファー、鉄甲、鎌、ティンベー、スルジンといった武器の由来について教えてください。
<回答>
一般的に言えば、次のように言うことができます。
一、棒(中国風に言えば棍)
言わずもがなのことですが、棒は石器とともに人類最古の武器であり、古代より使用されてきたものであることは論を待ちません。中国では古来、少林寺の棍法が有名です。「すべての武術は棍法を宗とし、棍法は少林を宗となす」と言われております。沖縄の棒は、地理的・文化的な立地条件から見て(もとより南方渡来のものもあるでしょうが)基本的には中国からの影響を強く受け、沖縄の文化と風土の中で、独自の創意工夫を凝らしつつ成立したものと推定されます。
独自という意味は、そもそも漢人(いわゆる支那人)の体に合わせて成立した中国武術的な動き方を(人種の異なる)琉球人の体に合うように工夫したという要素を含めての、(もとより棒のみに限りませんが)言わば中国武術の沖縄化という意味合いです。
因みに、棒の種類としては、六尺、九尺、三尺、砂掛け棒があります。
二、サイ
中国・明代の陵墓からサイの祖形と思われる武器が出土しています。サイの由来については俗説・珍説の類が多くありますが、やはり中国渡来のものと推定されます。
因みに、釵の種類としては、通常の三叉(みつまた)の釵の他に特殊な形の卍釵があります。
三、ヌンチャク
彼のブルース・リーで有名になったいわゆるヌンチャクは、中国北方では双節棍(シャンチェコン)と言い、福建省では両節棍と書いて「ヌンチャクン」と言っています。これもまた中国渡来のものと推定されます。その他、三節棍、四節棍もあります。
因みに、ブルース・リーが映画で使ったヌンチャクの技法は沖縄伝来のものとは全く関係ありません。沖縄の技法は携帯棒としての一本のヌンチャクを操作するものであり、ブルース・リーのごとく二本のヌンチャクを両手に持って使うということはありません。
因みに、フィリピンにはKALI(カリ)と呼ばれる伝統武術が伝えられております。60〜70cmの短棒を両手、または片手に持って打ち合いながら、様々な動きを練習するものです。
このフィリピンのKALI(カリ)の技術の一端としてヌンチャクに似た形状の武器(タバクトヨクと呼ばれる)があります。沖縄のヌンチャクが一本の棒を扱うがごとく重く鋭く振るのに対し、タバクトヨクは、非常に軽快な振るところに特徴があります。
ブルース・リーの場合は、このKALI(カリ)とタバクトヨクの技法にヒントを得て映画用にショーアップしたものであります。因みに、彼が映画撮影時に用いたヌンチャクはプラスティック製の軽いものと謂われております。
四、トンファー
トンファーは、拐(カイ・福建省ではトンクワー)という名で中国には古くから伝えられている武器であり、各種の形に分かれていますが、その中の一種が沖縄に伝えれたものと推定されます。
因みに、イタリアン式フェンシングの中には、十字形になっている剣の柄を上から鷲掴みの形で握り、突きの後にトンファー的な使い方をするものもあります。手首の回転と武器の遠心力を利用した裏拳的な技法は洋の東西を問わず、共通のものがあるようです。
トンファー術の特長は、一本の棒を二つに分断してかつ短くし、それぞれに把手(え)を付けて(上記のイタリアン式フェンシングのごとく)操作し易くしているため、通常、両手で操作するところの棒の技法と同じ技法を両手で操作することを可能にしていることにあります。つまり、トンファーの応用範囲は極めて広いということになります。
少なくともトンファーは、俗説でまことしやかに謂われているがごとく「石うす」の取っ手から考案された武器でないことは確かです。洋の東西を問わず、そこには深遠な術理が秘められているということです。
五、鉄甲
鉄甲は日本の忍者も使っていますが、由来がどこというよりも拳の威力をより強める必要性からこれまた洋の東西を問わず自然発生的に工夫されたものと解されます。とりわけ琉球古武術の鉄甲術の場合は、空手の術理を最もストレートに応用できる武器ということになります。
少なくとも、(徒手の組手に殆んど近い)鉄甲の組手をすれば、空手の拳をなぜ当ててはいけないのかという理屈が本当の意味で理解されます。鉄甲はもとより武器であり、空手の拳もまた武器に他ならないからであります。逆に言えば、空手においてなぜ拳足を鍛える必要があるのかを真に理解できるということであります。
六、鎌
戦は基本的に野外で行われるものです。そのような場所で生い茂る雑草や潅木の類を刈り払い陣場を構築するのに不可欠にして便利な道具が鎌です。のみならず鎌は湾曲した刃で梃子の原理を用い、少ない力で大きな殺傷力を得ることができ、かつ相手の武器を引っ掛けて絡め操る特長があるためるため古来武器としても用いられたものであります。
琉球古武術には古伝空手の術理を応用しての二丁鎌術があり、日本には鎖鎌・長柄の鎌・鎌槍などがあります。
因みに、いわゆる鎖鎌術は、分銅鎖術と鎌術を合体させたものでありますが、鎖鎌術の流派の中には、(琉球古武術と同じく)分銅鎖を付けない形での二丁鎌を用い、本来の鎌術としての精緻な技法を残しているところもあります。
七、ティンベー
正確にはティンベー(楯)と、ローチン(短槍)を組み合わせたものでティンベー術と言います。このように、片手に防御用の楯を持ち、片手に剣・刀などの攻撃用の武器をもって戦う武技は(ギリシャ、ローマの時代を例に引くまでもなく)古代からありました。
たとえば、中国の場合、明の名将、戚継光が和寇の撃滅戦法に用いた強力な秘密兵器として知られております。そのティンベー術は、楯という防禦兵器に、投げ槍・腰刀という長・短二つの攻撃兵器を組み合わせたところに特長があるようです。沖縄のティンベー術にも似たような所作があるため、多分にその影響を受けたであろうことは想像するに難くありません。
八、スルジン(短鎖・長鎖)
人類史上、鉄が武器として登場すると、それまでの青銅製の武器は瞬く間に姿を消して行きました。鉄の特長が固く折れず曲がらず強いところにあったからです。その鉄がいわゆる鎖の形状をとれば、鉄は一転して、柔らかく折れて曲がりかつ強い素材ということになります。
その特長を武器として活用したものが、棒手裏剣の如き形状の武器と(鎖の先に分銅をつけて用いる)分銅鎖を合体させたスルジン術ということになります。分銅鎖で相手の武器や首を絡めて、先端の鋭く尖った棒手裏剣状の柄で攻撃するなど多様な技法があります。
とは言え、物事には必ず両面があります。分銅鎖が強力な武器なだけに、反面、コントロールいう側面においてはその操作に難点があり、そのゆえに熟練の技が要求されるということになります。生兵法でこれを用いることは、返って自らを傷つけることになるという危険性を秘めた武器であります。
スルジンの種類としては、鎖の長さが一尋(両手を左右に広げたときの長さ)の短スルジンと、二尋の長スルジンがあります。因みに、日本の鎖鎌の鎖は長いもので3.5メートル前後あります。
いずれにせよ、古来、沖縄では(もとより中国もそうですが)空手を学ぶ者は武器を併せて学ぶのが常識となっています。上記の八種の武器はまさに手の延長であって、空手と異種のものではなく、長短の武器を学んでこそ空手の全てを理解できるものと謂われております。
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